今から5年前の2016年7月22日が、何の日だか覚えているだろうか?
街の至る所でスマホを片手に一喜一憂する ”トレーナー” が現れた日。
そう「ポケモンGOの配信がスタートした日」である。
知らない人のために紹介しておくと、ポケモンGOとは世界中で大ヒットした人気ゲーム「ポケットモンスター」のスマホ用アプリ。
画面越しの現実世界とリンクして出現するポケモンを捕獲・育成して、ライバル達と熾烈なバトルを楽しむことができる。
人気の影には、歩きスマホのみならず、車を運転中にポケモンGOをプレイしたことによる悲惨な事故が起きるなど、良くも悪くも物議を醸した。
とまあ、前置きが長くなったが‥
ポケモンGOのリリース日が近づくにつれ、当時携帯ショップ勤めしていた筆者は、いや~な予感がしていた。
そして、その予感はジャストミートするのであった。
芯に当たりすぎた特大ホームラン。
はじまりは「一本の電話」から
これは筆者の主観だが携帯ショップにかかってくる電話は、ロクな問い合わせではない割合が圧倒的。
話題のポケモンGOのダウンロード開始が、いよいよ明日と迫った7月21日。
昼休憩から戻ったタイミングで鳴った電話を取ったのが「ポケモン婆さん」との最初のコンタクトであった。
「婆さん」と聞いて、違和感を覚える読者も多いだろう。
なぜならポケモンGOのユーザーは、世代的にも若者中心のはず。
筆者も、電話越しの婆さんから「ポケモンGO」のワードが飛び出した時は、少し頭が混乱しかけたが、とりあえず話を聞くことした。
内容はこうだ。
婆:「ポケモンGOのやり方を教えてほしいんだけど!」
電話のファーストインパクトがこれである
ほーらやっぱりロクな電話じゃない。
筆者:「ど、どういったことでしょうか?」
婆:「だからスマホでポケモンができるんでしょ?ニュースでやってたじゃない!やり方教えてよ!」
突っ込みどころが満載すぎて、多少の混乱状態だった筆者の頭はとうとうバグり始めていた。
記事の冒頭で「リリース日が近ずくにつれ、嫌な予感はしていた」と語った理由は、日に日にポケモンGO絡みの問い合わせが増えたことが原因。
例えば次のように
|
「そんなもん知らんがな…これってポケモンGOの操作方法聞きにくるヤツ絶対おるやん…」とある程度の覚悟はしていた。
まさにこの電話が ”それ” だった。
しかもリリース前日。
やり方はおろかダウンロードすらできない。
筆者は自らを鼓舞するかのように、拳に力を込めつつ次の3点を説明
- スタートは明日
- ダウンロードも明日
- 操作説明はドコモのアプリではないので対応はできない
電話越しの婆さんから返ってきた言葉が…
婆:「明日そっちにいきます」
うぜぇ、、誰かこの電話の婆さんモンスターボールで捕まえてくれないかな。
(シフト表をチラ見)
あ、明日出勤日だ…
リリース当日
もともと嫌なことや面倒なことは、1日経つとキレイに忘れるタイプの筆者。
SDカードの容量に例えると512MBの保存レベルといったところか。
正直、昨日のポケモン婆さんから電話があり、そして今日の来店予告をされたことはスッカリ忘れていた。
だが、同僚の一言で24時間前の電話のやりとりがフラッシュバック
同僚:「○○君(筆者の名前)指名で、あのお婆さんが来店しているよー、順番来たら用件聞いてあげて」
婆さんは待合のソファーに腰をかけて、鋭い眼光でこちらの様子を伺っていた。
(マジで来た…)
用件は聞くまでもない。
なぜなら昨日聞いたから。
婆さんはポケモンGOがやりたいのだ。
- 正気なのか?
- ピカチュウとかリザードンとか分かるの?
- え、そもそもスマホ持ってるの?
さまざまなクエスチョンが頭を駆け巡ったが…やるしかない、聞くしかない、いざとなったら逆に捕まえてやればいい。
筆者:「ご来店ありがとうございます、昨日お問い合わせいただいたお客様でしょうか?」
心のにもないことを笑顔で言う自分にも腹が立った。
だがそこは社会人。
ネクタイをキュッと締め直し、カウンターというなのフィールドへ。
「あっ!やせいのばあさんがとびだしてきた!」
婆さん先制攻撃~すばやさ120
婆:「昨日電話したんだけど、ポケモンのやり方教えてくれないってどういうこと?」
筆者:「そ、それはですね、ドコモのアプリでは、、」
婆:「あんたのとこで買ったスマホだよ!おかしいでしょ!」
こちらにスキを与えない攻撃スピードは、ポケモンのなかでも最高クラスのすばやさを誇る ”サンダース” に匹敵するほど。
この時点で筆者は焦りまくっていた。
(ヤベェ、この婆さんが持ってるスマホ…らくらくスマホだ…)
説明しよう! らくらくスマホとは、シニア向けに発売されたスマートフォンの総称。 形はスマホだが高齢者向けに特化しているため、一般的なスマホとは異なり操作範囲は限りなくシンプルなもの。 というより、ほぼガラケーに近い。 婆さんの所有する「らくらくスマートフォン F-12D」は通信規格も3Gでネットの速度は遅く、GooglePlay ストアに非対応の為、ポケモンはおろかアプリのダウンロードはできない。 無論、ポケモンGOをプレイすることは不可能。 |
そんならくらくスマホとポケモンGOである。
まさに、激戦必至
ギャラドスのはかいこうせん
とにかく、筆者は「らくらくスマホで、ポケモンGOがプレイ出来ない理由」を丁寧に説明する必要があった。
令和3年のトピックスに置き換えるなら「全集中・説明の呼吸」である。
まだまだ未熟ながらも、習いたての呼吸法を駆使して、事実を伝える筆者。
次の瞬間、婆さんの眼(まなこ)が「カッ!!」と見開いた。
その様態は、あのきょうあくポケモン ”ギャラドス” を彷彿とさせるほど。
婆:「なんで使えないんだ!そういう大事なことは最初に言ってよ!アプリが使えないってどういうこと!」
その破壊力・衝撃音は、ギャラドスの得意技「はかいこうせん」さながら。
本来、ポケモン世界のはかいこうせんは、反動のあまり次のターンは攻撃ができないのだが…
婆さんは違った。
婆:「ならアプリが使えるように中身を変えろ!」
(へ?中身?変える?なんで?)
この時点で、残りHPが4分の1を下回る筆者。
あいにく”かいふくのくすり” といった便利アイテムは持ち合わせていない。
その後も不毛なやり取りが続くが、気が付いたら店内が異様な雰囲気に…
今でこそ面白おかしく回想しているが、当時の現場はあまりの婆さんのヒステリックさから「ちょっとやばいかも…」とお客さんスタッフともども逼迫(ひっぱく)していた。
店内には他のお客さんも全員こちらを見ており、筆者と婆さんのやり取りを注視するバックヤードのスタッフ達もチラチラ…
婆さんの様子が笑えないくらいヒートアップしてきたところで、ポケモン研究者のオーキド博士…じゃなかった店長の登場である。
その後は、店長が婆さんを店外へ誘導
説得のもとお帰りいただいたところで、本ストーリーは終了である。
その日の勤務終了後に自宅へ帰った筆者を待っていたのは、楽しそうにポケモンGOをプレイする妹の姿。
どうやら風呂場に”ポッポ”が出現したらしい。
~完~